NovelJam 2018秋 参戦 / 観戦記など

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ノート

藍のメモ6

かーさんは、時々りんごをうさぎにする。

それが当たり前だと思っていたけれど、そうでないことに気がついたのは最近のことだ。

ぼくとて、14歳にもなればりんごのうさぎに喜ぶことはもうない。でもなんとなく、テーブルにやつが現れると安心してしまうのだ。

とーさんはよく、「藍はいつ思春期が来るんだろうね」と言う。それは、ぼくがあまりにも周りの中学生とかけ離れているからだという。

周りの中学生とは、大

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藍のメモ4

紺とかーさんとすごしていると、とーさんがごく普通の人間に見えてくる。

とーさんはとーさんで、変わっている。でもそれ以上に、紺とかーさんは変わっている。

ぼくと紺は、月に一度とーさんと会う時間を設けている。ぼくは密かにこの時間を心待ちにしており、数日前からなんとなくそわそわしてしまう。とーさんはおおらかで、いつだってにこにこしている。ぼくたちの話を、それがどんな話だとしても、目を細めて楽しそうに

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藍のメモ3

かーさんが泣くと、暗くなる。空気という話ではなく、この世のまるですべてが、かーさんの力で成り立っているかのように、何もかもが暗くなる。

かーさんが泣くのは決まって、紺とぶつかったときか、恋人と何かあったときだ。理由が明確なのは、悪いことではない。ものごとは、なんでも単純明快なほうがいい。

「かーさんはナルシストなのよ」

紺が吐き捨てるように言う。今回のそれは、紺とぶつかったことによるものだ。

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藍のメモ2

制服のネクタイは少し窮屈で、ぼくは下校時にはいつも外してしまう。

教科書やノートが所狭しと肩を並べているかばんの隙間に、えんじ色のネクタイを押し込む。しわにならないように、でもじゃまだと言わんばかりに。

藍ちゃんは本当によくネクタイが似合うのね。はじめて制服に袖を通した日、かーさんは目尻を下げながら、そう言ってぼくのネクタイを締めた。ネクタイなんて今までふれたこともなかったぼくに、締め方を教え

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藍のメモ 1

紺は今日も不機嫌だ。

渡り廊下で給食の残りの牛乳を飲んでいた。といってもそれはわざと「残しておいた」のであって、紺が「そうしたい」からそうしているだけだ。紺は給食と一緒に牛乳を飲むことを好まない。給食中は、どう考えても水かお茶しか合わないと譲らない。頑固なのだ、性格も、味覚も。

ぼくは、給食中は牛乳と決まっているのならば、別にそれで構わない。合おうが合わまいが、そうなっているのだから。世の中に

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